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フィールドの生物学シリーズ12 [本]

出版直後に購入したのだけど、卒論を書く際の参考になるだろうと学生に渡していたので、ようやく読了。調査対象は違うけど、研究テーマはよく似ているので、サクサクと読み進んだ。

フィールドの生物学シリーズ12巻
クマが樹に登ると―クマからはじまる森のつながり
著者 小池伸介
体裁 B6判 226頁 並製本
定価 2100円(税込)
出版社: 東海大学出版会
刊行 2013/09
ISBN-13: 978-4486019930

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ツキノワグマを中心に動物による種子散布の研究について必要な事柄や想定される困難など、いちいち納得しながら読んだ。日本国内の動物による種子散布の研究は、過去10年くらいに急速に論文化された情報量が増えた。その理由の一つは、著者である小池さんらによる種子散布者としてのツキノワグマの生態系機能に関する研究の進展がある。とても大型哺乳類を対象にしているとは思えないペースで数多くの論文を書いており、本書には、それらの内容がコンパクトにまとまっている。いきなり英語の論文には、手を出しにくいという学部生にもすすめやすい。国内外を問わず、動物による種子散布を研究テーマとして考えている大学生なら必読の一冊。

カオヤイにいた頃にツキノワグマやマレーグマの糞内容分析をやったことがあるし、森の中で遭遇したこともある。もちろん、サイチョウが調査対象だったので、積極的にクマを探していたわけではないが、糞を拾った回数もそれほど多くはなかった。ただ、ブタオザルやテナガザルと比べると一つの糞に含まれる種子の量が多く、洗ってから種子数を計数するのが結構大変だったことはよく覚えている。大量に種子が含まれていたCinnamomum subaveniumについては、いくつかの糞を野外で追跡調査もしてみたけど、発芽後に死亡したものがほとんどだった。当時はツキノワグマの糞から、直接発芽したものはあまり生存率が高くなさそうだと判断していたけど、小池さんの研究のようにネズミや糞虫の二次散布まで考慮すると意外とクマ糞から少し離れた場所で、ひっそりと生き残っていた実生がいたのかもしれない。

本文とは関係ないのだけど、同じフィールドワーカーとして感心したのは、著者本人が撮影された写真がいくつも掲載されている点。当時から、かなり意図して撮影していたのではないだろうか。それとも私が単に森のなかで単独行動をしていたことが多く、チームで動く場合はある程度、他の人が撮影することもあるか。

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全巻そろえるとこんなにカラフル(アリは貸出中)。

海外のマムシグサの種子散布について関連文献を取り寄せてみたら、野外で果実食を観察したのではなく、普段は食べていないけど、他の果実と一緒に給餌してみたというものだった。ちゃんと要旨を読んでから取り寄せ依頼するべきだった。まあ、食べているという情報にはなるから、とりあえずメモ。