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フィールドの生物学シリーズ11巻 [本]

午前中に先週から返信が遅れていたメールに対応。その後は査読とか集中講義の採点業務とかから現実逃避してしまい、読みかけのまま放置していたオランウータン本を読む。

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フィールドの生物学シリーズ11巻
野生のオランウータンを追いかけて―マレーシアに生きる世界最大の樹上生活者
著者 金森朝子
体裁 B6判 220頁 並製本
定価 2100円(税込)
出版社: 東海大学出版会
刊行 2013/08
ISBN-13: 978-4486019916

著者には研究会などで何度かお会いしたことがあるし、論文も読んではいたけど、オランウータンの研究に辿り着くまでの紆余曲折は知らなかったので、ちょっと新鮮だった。カオヤイにいた頃に丸橋さん経由でニホンザルと比べるとオランウータンの研究は活動的な時間や個体間交渉を見る機会に限られるので大変だと聞いていた。さらにダナムバレーで林冠を動く黒い塊にしか見えないオランウータンと出会い、やはり単に見るだけならともかく、調査対象として選択するのは大変そうだと実感していたので、長期間の観察に裏打ちされた本書の内容は貴重。

帯にも書かれているように少なくともボルネオのオランウータンは、毎日、ドリアンのような美味しい果実ばかり食べる生活をしているわけではない。3年間の調査期間中、一斉開花年と非一斉開花年を両方経験できたのは、研究者としての運の強さだろう。デジタル双眼鏡って一度使ってみたい気になって、金額を調べてみたら、ちょっと消耗品としては難しそう。ただ、サイチョウを観察している時にもこのタイミングで写真を撮れたらなあと思ったことは何度もあるので、一度、どこかで使ってみたいなあ。

本文中でも触れられているがオランウータンのように研究データを収集するのが難しい調査対象では、調査手法を標準化して、調査地間の比較を促進する取り組みが必要不可欠。その点、霊長類では進んでいるけど、サイチョウ類でも同じような取り組みができないものだろうか。もう少し調査手法を統一できれば、比較可能な情報が増えると思うのだけどなかなかそうなっていないのが現実。

書評はそのうち熱帯生態学会NLにも掲載される予定。